2016年 第5回 Derby展
展示記録
2016年 オーディエンス賞 受賞者
 立体部門賞 長谷川麻衣子
 平面部門賞 森洋樹

立体展

立体部門作品紹介

出展作者
石川奈津美・荻原林太郎・川村さやか・作田美智子・柴野千鶴・島内美佳
白石綾・鋤柄大気・筒井藍・中島由佳・平賀愛子・蛭田香菜子・松島勇祐
間々田佳・森洋樹

平面展
平面部門作品紹介
出展作家
大上舞子・小川万莉子・久保田淳・杉村朋実・鈴木嘉人・高野かな・高橋はるか
高橋萌・中村和華子・西井保奈美・長谷川彩織・長谷川麻衣子・バルサミコヤス
福田美香・フルフォード素馨・村田恵理子・渡邉友美


2016年度展覧会の日程
立体展:8/26 - 9/4 31(水) 休廊
平面展:9/9 - 9/18 14(水) 休廊
未知の力−第5回Derby展を見て
松永康(アートコーディネーター)

 Derby展は今年で5回目となる。今回もまたさまざまな作品との出会いがあり、たくさんの刺激を受けた。
 全体の印象としては、具象作品が減り抽象的な表現が増えたように感じた。あと意匠性の強い作品も多くなった。たとえば立体では平賀愛子さん、平面では高野かなさん、煖エはるかさん、大上舞子さんなど。彼らの造形はもちろん視覚芸術として成り立っているのだが、印刷物や掛物といった用途と結びつくことでまた別な魅力を発揮する。
 「Derby展」には、来場者の投票によって決まる「オーディエンス賞」というのがある。展覧会の終了後、開票が行われ、立体部門では森洋樹さんが、平面部門では長谷川麻衣子さんがそれぞれ第1位に輝いた。
 森さんは日常の風景の中から気になった部分を抽出し、特徴的な立体作品を構成していく作家である。目の前に広がる風景は、そのままでは種々雑多な要素の寄せ集めでしかない。私たちはそこから自分にとって有用な情報だけを抜き取り、うまく秩序立てることで記憶の中にとどめている。しかし、この有用性という基準を取り払ってみると世界はどのように見えてくるのか。それが森さんのテーマである。
 制作を始めるとき、彼は風景と向きあいながらその閉じられた関係の中で抜き取るべき要素を選んでいく。そして制作が進むうち、作品には一定のリズム感や統一感が与えられる。だが、そもそも有用な部分が抜け落ちているため、そこには常に一種の浮遊感が漂っている。そしてこの特徴が作品に、置かれた場と自在に関わり、さらに新たな意味を生成していくことのできる汎用性を与えているように思えた。
 一方の長谷川さんだが、ひとつひとつのタッチで対象物の形を浮び上がらせ、同時に全体の調子を整えていくという作風だ。印象派の影響を受けたわりと一般的な絵画で、熟練したテクニックを使いこなす技巧派のようにも思える。
 しかし過去の作品を一覧してみると、画面に印刷物やオブジェを貼り付けた作品、毛糸に無数の紙切れを結びつけた作品、さらに木の枝に布を巻きつけた作品と、かなり多彩な表現を試みていることがわかる。そしてその幅の広さから、技巧派などという憶測はいっぺんに吹き飛んでしまう。
 長谷川さんはコメントに、「ものをつくる」ことは「とても個人的なコミュニケーション」であり、それが「今にわたしを引きずり戻し」て「急に色々なことがはっきりと見える瞬間が」あると書いている。作品の制作は素材や場との「個人的なコミュニケーション」であり、そのことで「今」の世界が見えてくるというのだ。
 「個人的なコミュニケーション」、それは周囲から切り離され自らの内面と向きあうことでもある。彼女にとって作品の制作は、おそらく目的ではなく手段なのだ。その真の狙いは、そこから改めてリアルな世界観が立ち現われてくることなのだろう。
 とりあえずこの2人の作品を引き合いに出してみたが、今回の出品作家はいずれも、すでに身についてしまったものの見方をずらし、自己を超えたところにある新たな感性を模索しているように思えた。これは他ならぬ、近代以降の美術が総じて目指している方向でもある。
 時代は今、大きな転換点に差しかかっている。これまで築き上げてきた文明を単に引き継いでいくだけでは、どうにもならなくなっている。新たな価値観が見出せなければ、世界は近いうち破綻するかもしれない。これは多くの識者の一致した見方だ。
 実は人の体の中には、地球上に生物が誕生して依頼、何億年もかけて培ってきた無限の能力が秘められている。さまざまな危機を乗り越える中で体得してきた潜在的な力である。それを引き出すには、表層に染み着いた習慣をいったん引き剥がさなければならない。そのことで、現状に対応することのできる力が自ずと立ち現れてくるのだ。出品者たちが直感的に試みていたのは、まさにこのことなのだと思う。